SOLA・そら・空。

 

 

 空を見るのが好きです。朝、昼、夜。明け方、夕方。夜に、起きてしまうと、ベランダや裏庭に行く癖があります。空を見て、一服して、空。

 

 長野県で見る夜空の星は格別で、気温が冷えてくると増々時間を忘れ、寒さに我慢できなくなるまで眺めています。願い事を頼むのは至難の業ですが、流れ星は結構、飛んでいきます。星座には詳しくないので、星の名前などはわかりませんが、総称して「いつもの星」と。

 

 ブラジルに移住し、郊外の目的地に着いた最初の夜、空を見ていると、見慣れた星を見ました。誰でも知っているオリオン座。日本でもおなじみの星ですが、あれれ、こっちでもみれるんだ、と感激です。ちょっと角度が違うような気がしますが、間違いなくオリオン座です。

 

 練馬の空は、最近飛行機が増えて、そのたび「こんなに飛行機とんでいたっけ?」と、いつも思うのです。わりかし近いところを、旅客機が飛んでいます。星こそ、あまり見えませんが、飛行機はたくさん飛んでいます。

 

 ブラジルでも、空港の近くの街では、乗り入れしている各国の国際線や、ブラジル国内線が、かなり低い位置で飛んでいるのを見ることができます。ベランダで一杯やりながらのときなどは、もってこいのつまみになり、ビールがすすみます。

 

 一方、郊外では、まず、旅客機など飛んでいませんから、たまに見るのは、小さな自家用飛行機。そのかわり毎日同じ時間に、どこかの国の静止衛星が、スーッと流れていきます。唯一、明るい時に見える星。そして、夜になればこちらも星空のメッカで、流れ星も見放題。BGMは、たまに聞こえる牛や鶏の寝ぼけ声。

 

 それほど動きはありませんが、空を見ていると退屈しません。

 

 熱帯魚を飼っていたころ、やはり同じことがありました。水槽の魚を見ていると、時間を忘れます。危ないのは、室内で時間を忘れると、お酒が止まりません。特につまみの必要なく、ちびちびとやってしまうのです。餌用の芋虫を飼っていたのは大ひんしゅくを買っていました。「みんなも、からあげやハンバーグ、食べるでしょ?」と、納得させていましたが、その手は早々と、使えなくなりました…。

 

 交通量の多い目白通り。車のヘッドライトは流れの中できれいです。見ているこっちをむこうも見ている、ので、それほどリラックスしてもいられない。富士山同様、夜の道路は高いところや、見える場所までいかないと見ることができません。

 

 自分の住まいで、こういう場所があることが、ぼくの住居選びの基本です。都会では、なかなかと難しい注文ですが、それなりに安くていいところを見つけています。長野県に住んでいるときは、ほぼ、町のどこからでも浅間山を見ることができたので、何か、浅間山に見守られている気になります。「母なる山」とは、いい得て妙、まさにぴったりの言葉です。

 

 おもえば、人間以外のすべての生き物は、月や太陽、自然から時を感じ知るわけで、カレンダーと時計頼みの我々とは、1歩も2歩も高い能力を持っていることになります。というより、昔々は、人間もそうだったのでしょう。山と対話し、川や海の声を聴いて、空を眺めていた。それが、どんどん退化していって、今はこの様です。

 

 先人たちの知恵を使い、生き物の動きを見て暮らしの参考にし、自ら自然の掟に従い、その一員として共に暮らしていく。気持ちのいい場所を選ぶ。まだまだ、ぼくの周りには無駄なものがたくさんあります。人の歴史よりも、はるか前からそこにあるオリオン座の下に、ボーっと突っ立ているぼくを見て、水槽にいた魚たちは、笑っているんでしょう。