はっけよい!

 昨年暮れから「ぎっくり腰」になり、約ひと月。このところようやくに動ける体に戻りました。この間、いろいろと試し、過去の経験と照らし合わせてみて、最良の方法は「そこそこ動くほうがいい」です。はじめの3日間くらいはできるだけ安静にしますが、それ以降はうなりながらも、できる範囲で普通の暮らしをする。そのうち、ぎっくり腰自体は治癒していないものの、その周りの体がだんだんと痛い時バージョンの動きに慣れていって、全体としての活動がしやすくなる。日に日に体が腰をかばう動きを完成させつつ、痛めたところも徐々に回復していく。

 

 僕の場合は、立ち上がる時の、ひざと足首の使い方です。相撲の蹲踞(そんきょ)の姿勢から、ひざの内側と足の親指の付け根に力の意識を集中して、真上に立ち上がります。少しでもバランスがずれると「いてて!」となります。さすがに、1か月間もこのことを意識していると、自然と体がこの動きに慣れて、ほとんど痛みがなくなった今でも、これはこの方法で再発防止に日々心掛けていなければならないと思っています。

 

 両横綱が欠場となった初場所も、終盤戦に差し掛かり、力士たちの顔つきも変わってきました。調子のいい力士もいれば、満身創痍、立っているのもやっとといった力士もいます。いわば、彼らは怪我のプロです。やはり、どの取り組みも勝つ一番というのは攻めているとき、攻められているときにかかわらず、体の中心が傾かずによくバランスが取れています。

 

 横綱を倒して最高のスタートを切った遠藤は、中日八日目、炎鵬に敗れた一番からバランスを崩しています。そして、その炎鵬は格上の相手にも手ごたえを感じさせる取り組みが続いています。あれだけの力の持ち主が相対しているわけですから、ちょっとした無理な体勢からついつい力に頼ってしまい、思わぬ怪我につながるということは意外と多く、そのために日々の稽古では力をつけつつも、怪我をしない体を作る相撲ならではの鍛え方があるのだと思います。

 

 「ぎっくり腰年越し」の僕にも、やはり、日々の訓練、というか行いの中でとても参考になります。朝、起き上がる時、洗い物をするとき、料理をしているとき、階段を下りているとき、パソコンを使っているとき…。常に、体のバランスを気にして、その時にあったポジションを取り、さらには呼吸にも気を付けて、集中して暮らす。はじめはついつい横着しがちでも、日を追うごとにだんだんと慣れていき、そのうち体が自然と、ベストな体勢を取っている。怪我の予防に何よりも効き目があるのは、気を抜かないことですね。

 

 若貴時代あたりから、大相撲の力士の中にも喜怒哀楽の表情が豊かな力士が増えてきました。観客やテレビでは歓声が上がりますが、その分、勝ってもあまり表情を変えず、怒りや気合を表に出さない、どこか凛としている力士もいます。貴景勝魁聖松鳳山、遠藤、豪栄道…。おそらく、彼らも怪我を背負って土俵に立っているのでしょう、尊敬します。

 

 行司や、呼出し、力士に比べるとあまり目立ちませんが、彼らがいて、国技館をさらにキリッとさせます。すべての人達が作る会場の空気。長く引き継がれている文化。

 

 自転車通勤の距離が10分の1になってしまい、やや、運動不足気味です。蹲踞からの立ち上がりを常にイメージして、調理場や横断歩道、電車の中や喫茶店、どこにいても、自分が土俵に立っている感覚。力士には到底及びませんが、だんだんと自分のものになりつつある!とします。

 

 環境が変わり、毎日、相撲が見れるうれしい日々が続いている僕のぎっくり腰も、終盤戦に入ってきたようです。