2020

 

 元日の昼に都内を走る。閉まっている店はいつもより多い。それでも営業しているファストフード店などは、大勢の客さんで賑わっている。交通量は少なめで、こうして緩やかに走っていると、なんだか東京、上品な街にも見えてきます。

 

 最近流行の「あおり運転」。これは、車が生まれたときから現在まで、なくなることなく、そして、これからも永遠に続くことですが、高速追い越し車線でのハイエース系、一般道で次々と前にいる車をあおるジグザグ系、練馬で出る時間はそれほど変わらなし、信号機の多い都会ではそれほど差はつきません。

 

 日が暮れて、夜。昼に比べると、さらに人は少なく、皆さんすでに飲みだしているのか、車も少ない。ファストフード店に、昼の賑わいはなく、さっきまで開いていたコンビニは閉店作業中。年末年始の営業について、いろいろと話題になりましたが、会社側や各店舗の経営者の人たちの気苦労ほどには、利用者たちは「ま、休みでも、休んでもいいよね」と、騒ぐほどのことでもないという感じ。

 

 あおり運転。そのお国柄によって少し温度差があります。日本では、時間に追われているのか?人生に追われているのか?機嫌悪そうに運転している人は、若者から中年の男性に多く、一方、あおられた人のほうも感情的になり、あおり返すことも。ブラジルでは、「車道で轢かれる(人)が悪いんだ」という文化のせいか、老若男女を問わず、ハンドルを握ったらとにかく飛ばす人がいます。なんといってもセナやピケの国ですから。

 

 以前、仕事で訪れたミラノ市内で「意外とみんな止まるんだ!」と、思ったことがあります。ブラジルのようなイメージをしていたのですが、横断歩道に歩行者が立っていると、多くの車が止まっていました。確かに、ブラジルでも、飛ばさない人たちは、ほぼ例外なく穏やかな運転「ゴーイングマイウェイ」型です。日本で言えば「長野県型」

 

 都会や高速道路など、何か遮断された空間をひたすら走っていると、家を出たときは穏やかな気持ちだったのに、走っていくうちに、あおり、あおられ、だんだんと余裕がなくなっていって、それがほかの車にも伝染して、道全体を得も知れぬストレスが包んでいく。そこへいくと、海外や、長野県は、街を出ればそれほど密集地もなく、まわりは大きな自然に囲まれているせいか、運転中にそれほどストレスは感じません。

 

 ブラジルや長野県での暮らしが長いせいか、ぼくは常に車間距離をとり「あおり運転」しません。ので、よくあおられます。同乗者からは「君の運転は、あおり運転をあおっていないか?」と言われます。確かに、あおられると、その気満々です。法廷速度まで落とし、教科書どうりのパトカー・教習車モードに。あおっている人は、鬼の形相で抜いていきます。その瞬間、ぼくの人生に彼はいません。なので、変なストレスに覆われることなく運転しています。免許をとって約30年余り経ち、その間ずっと車に乗っていますが、「無」とはいえませんが、事故や違反はほとんどしていません。勝手に「ラブ&ピース走法」と呼んでいます。

 

 これ、不思議なもので、あおり運転同様「ラブ&ピース走法」も他の車に伝染します。なにも、あおり運転に限ったことではありませんが、マナーよく走っている車の数が多いと、その道全体が「いい流れ」になっています。特に、トラックやタクシー、営業車の少ない休日や、自然に囲まれた道。運転は楽しく、車内の会話が遮断されることはありません。

 

 Baby、犬、撮影中…、いろいろと意思表示を後ろに貼って走るのも、それはそれで、手っ取り早く告知できるのはいいことですが、たとえばイーストウッドの映画のように、男と女のおさえ切れない情熱の高まりを、ラブシーンなしで表現するかっこよさ。より人の心に訴える行動。心で他の人に伝える重さ。伝えるほうも、受け取るほうも、それなりの熟度が必要ですが、これがいい。

 

 日本で売られる車、内外を問わず各メーカーどれも同じような外見。流行りものを追いかける暮らし。支払いに縛られなかなか仕事を辞められない。東京を中心にそんな状況が続く中、みんなと一緒ならとりあえずは、ひと安心。しかし、少数派ではあるものの、それとは違う生き方の人たちもいて、世の中が皆そうなってしまうと、逆に、見つけやすくなる。普通に古い車をきれいに乗りこなしている人を見ると、「お、あの人やるな!」と、なんだかうれしくなります。

 

 翌朝、早い時間。毎年のことながら「初夢」、起きた瞬間に忘れる。都内は静か。この日とばかり街宣車が数台、都心へと向っていった。今日からの店も多く、営業車は昨日より多め。ともかく「天気のいい正月」というのはいいもので、しかも都内をスイスイ走るのは気持ちがいい。

 

 同じ道を夕方通る。それでも、陽はだんだんと伸びてきて、暗くなる時間が少し遅くなった。昨日と比べると、人も車もずいぶん増えた。朝は人気のなかった新宿も、発売りから帰る人たちで賑わっている。たった一日で元に戻ってしまったようで、なんだか寂しい。

 

 

  「ゆっくり行くんだ、見えなかったものが見えてくる。

   立ち止まるんだ、聞こえなかったものが聞こえてくる」