みんなが、待っていたもの。

 

 成田からデルタ航空で、アトランタ経由。成田までは練馬からリムジンバスを羽田で乗り継ぐ。不幸にも、家から練馬駅まで雨に打たれ、ほぼ、濡れ鼠に。バスに乗れば、到着地まで室外に出るのはここだけなのに、雨。

 

 アトランタでは9時間遅れ、そのまま空港泊。これだけ大きな国際空港となれば、どんな時間でも働いている人たちがいて、孤独感なしに一夜を明かす。“雨が降ったら濡れればいい”旅の始まりです。

 

 デルタの旅は快適。食事、アルコール、よし。映画やテレビなど昔とは違い何本も見れて、まったく時間を持て余すことなく、よし。

 

 初めて旅行会社を通さずに、自分でネット予約からチケットを手配しました。プランを組んでいるときはとても楽しく、何よりも、エアチケットを買うスキルが上がっていくのは間違いなしです。座席、シート、日程、料金。日本を出てからいささか心配しましたが、さすがインターネット、手間かからず、よし。

 

 

 

 25年ぶりにRIOに来ました。歌にも出てくるガレオン=リオデジャネイロ国際空港。今ではアントニオ・カルロス・ジョビン空港という名前ですが、ぼくらにとってはガレオンです。懐かしい面々が迎えてくれました。お互い、それぞれに、25年の時代を乗せた風貌になって、あの頃の笑顔はそのままに。家につくまでの道中、近況報告タイムですが、なにせ、25年分ですので、続きは帰ってからに。

 

 さて、この旅で、先方の家族が心待ちにしていたことがあります。ぼくは全く考えてもいませんでしたが、ビールを飲んで、食事をして、さらに人が増えて、ケタケタと笑いながらギターを持ってきたり。ぼくは大勢で飲み食いするのは得意ではありません。しかし、そこはさすがブラジル、この国でにぎやかなのは大歓迎です。

 

 女将が、コーヒーを飲みながら近づいてきて、

 

「マサ、あのエビの料理作って!」

「えび?」

「白くてエビのっているやつ。赤いごはんで」

「あかいごはん?」

「名前忘れちゃったけど、赤いごはんにエビ!」

「・・・」

「オーブンで作るの!」

「えびどりあ・・・?」

「それそれ!牛乳使うやつ」

 

25年前、当時、ぼくはイタリアンで(雇われ)シェフ。いろんな場所で料理を作りました。日本流のメニューはブラジルでも大人気で、グラタン、スパゲッティ、ラザニア、ピラフ…、ブラジルに同類のメニューはありますが、日本流の味付けが好評です。どちらかというと、大人ではなく子供の味。ハンバーグ、からあげ、カレー、ナポリタン、餃子、焼きそば、オムレツ…。

 

 女将は、僕の話題になると「赤いごはんのエビが食べたい」と、よく言ったそうです。

 

 マッシュルームと玉ねぎで、ケチャップライスを作ります。エビは、半分はむき身、半分は殻付き。さっと霜降り。マーガリンではなくバターでベシャメル。ここはブラジル女将のご機嫌取りでクミンを少し。オーブンを熱して、みんなでエビを配置。

 

 庭ではおとこたちがBBQの担当。赤身肉やウィンナー、ハツやレバーが焼ける匂いが漂ってきます。ついでに、日本のBBQ定番メニュー、カボチャ、なす、トウモロコシ、さらに、エビとイカ。頃合いを見計らって、エビドリア、イン!

 

「おいっ、“赤いごはんのエビ”まだかっ?」と、おとこたち。

 

キッチンからはドリアの焼ける匂い。

 

「先にこっちで食べちゃいましょうよ!」と、おかみ。

 

すでに、25年の歳月はありません。今日のわれらです。人も、世の中も、車も、言葉も、時の流れとともに、ゆっくりと、あるものは猛スピードで、変わっていきますが、味、匂い、心、空、風、変わらないものがあります。

 

「こりゃ~、うめーや!」

 

 こんなにうれしい言葉はありません。つながっている心に、料理が味付けをしてくれます。