変わらない太陽

 バスは、北口に着いた。見慣れた街でも、僕はなぜか「よそ者」のように感じた。3年ぶりだ。待ち合わせの場所で、相棒を探すも、見つからない。二人して、携帯で話しながら、「エレベーターの下だ」「もうそこにいる」「北口のだ」「そこにいるんだ」・・・。見慣れない車に乗った「ヤツ」は、目の前にいた!それもそのはず、片や太くなり、もう一方は細くなった。辺りを見回しながら、携帯を耳に当てているオジサン二人を、笑顔がつなぐ。僕がこの町にいる理由はただひとつ、彼らがいるからだ。ほとんど友人のいない僕だが、それでも会いたい人は何人かいる。どこまで会えるか?1泊2日の滞在が始まった。「この車、使ってくれ」とヤツが用意してくれた車で、街をまわり出したが、3年ぶりの(右ハンドル・AT・左車線)。人気のいない峠を下りて、少し練習した。山肌を流れる風、鳥の声、行きかう車もほとんどなく、タバコの煙さえ、自由に空に吸い込まれていく。また、会えたんだ!人の集まるところへもいき、何人か知った顔を見かけたが、風変わりした僕には、誰も気づかない。ちょっとしたスパイ気取りで、なんだか心地よかった。

 午後になり、20年近くやっていた自分の店が、空き家になっていることを知った。早速、大家さんに連絡をし、中を見せてもらった。そのままだ。この間、2~3回店子が変わったが、続かずに出て行った、と。埃だらけの店内、汚れた厨房、夏になるというのに、落ち葉の積もった階段。やりきれない気持ちだ。トイレの隅の、ほとんど使い物にならないホウキで、気がつくと、僕は床を掃いていた。外に車がとまっり、ドドドドッと階段を上る音。すぐに誰だかわかった。

「マスター!」

「イア~イ、アミーゴ!」

「始めますか!水まわりはオレがやりますから!」

また一人、上がってくる。この足音も誰だか知っている。

「いいテキーラ始めた、この辺じゃ仕入れているのはオレだけだ」

「ついでにメキシコのビールとリーチーのぶどう酒も、何ケースか入れておくぜ!」

 

 ここ3年、特に後半は、僕はほとんど笑った記憶がない。ついたあだ名が「(使った後の)マッチ棒」。帰国後、1月ほど東京にいたが、どこへ行っても冷房が効いていて、太陽のない夏に、いささか参っていた。ここには、前と変わらない、赤道に近いブラジルの町と、同じ太陽がある。ほんの数時間前、バス停にいたときまでは、まったく考えてもいなかったことが、起きようとしている。ここで暮らすとなれば、まずは宿だ。僕が日本にいることすら知らないであろう、彼に電話をかける。

「うちの2階使って、いつから?今夜からいいよ、布団ないけど」

 

決まりだ!笑い方を忘れてしまった僕の心が、踊りだした。別荘地のカフェにいる大家さんに会いに行くと、カウンターのコーヒーの横には、店の鍵が置いてあった。