セニョーラ、「ヴァイ・コン・デウス!」

 

 

イヤな日が続く。風はないものの雨脚は強く、ほとんど人も歩いていない。屋上の隅の喫煙ゾーンでタバコを吸い終えたとき、両手に杖を持った年配の女性がひとり、出口から出てきた。ゆっくりと歩きながら、雨にぬれている。車に向かっていた。僕は歩み寄って、傘を。

 

「ありがとうございます。何か差し上げるものでも」

「いえいえ、そんなつもりではありません」

「ほんとうに、ありがとうございます」

「どうぞ、お気をつけて」

 

雨の中のほんの出会いだったけど、これで十分だ。わずかな時間でも、これで十分だ。一瞬の出来事とはいえ、僕はなんともいえない充実した時間を過ごした。「おれは、誰かの役に立ったんだ」この、ほんのわずかな時間の出来事。今日一日、ほとんど悪いことばかり。というより、ここ最近ずっと。でも、思い出すたびに、なんとも満ち溢れた気分になる。

 

しあわせ、幸福、快感、嬉しさ、、、違う。

 

上手く言い表す言葉がない。

 

 翌日、長く続いた雨がやみ、久々の晴れ、晴天。屋上の喫煙コーナーには犬連れの男性が喫煙中。無愛想な男性。犬は後から来た僕の足をくんくんと嗅ぎだした。

 

「それほどいいもの食べているわけではないんですがね」

 

僕が言うと、男性は軽く笑った。この場所は、あまり好きではなかったけれど、昨日以来、ここに来ると優しい気持ちになる。

 

君がいて、僕がいる